20年の節目

揺れる柱につかまりながら、息子がドドドッと2階から降りてきた。TVで速報を確認した。コンビニのカップラーメンが落ちました…直後はこのくらいの報道でしかなかった。この時、大阪湾を隔てた神戸の街はたいへんどころではなかったのだ。


あれから20年、今朝は早起きして5時46分の寒さを体感した。よくぞ、こんな寒い朝に皆さん方は…。配られたおむすびの一個がどんなにありがたかっただろう。


声楽を専門とする私の拠り所は、あの地震と一緒に足元からガラガラと崩れた。音楽とは、芸術とは、今までやってきたことは一体何だったんだ。あの朝、神戸の方が手にされた「おむすびの一個」にも及ばない。声楽なんて意味ないやん!


それでも、ミニコンサートなどでせめて明るい心になって頂こうと演奏はしていたが、自問自答の日々だった。


しばらくたったある日、新聞記事に心が吸い寄せられた。「ガレキの中、赤とんぼを歌って周囲を励ます!」ある女性のエピソードだった。我が恩師の恩師・山田耕筰の歌曲「赤とんぼ」だ。究極の情況にあってこの歌が生命の灯を燈していた…声楽に本当の意味を探していた自分に与えられた答えだった。


あれから20年…。あの時、ストンと腑に落ちた「歌」は命を生きる方向へ入れるスイッチ。自分に使命というものがあるとすれば、「声を出して歌う」行為を伝えることと心得て、それぞれの方々の健やかな心身を育むお手伝いをしてきた。遠方でも被災地でもない、普段の己の持ち場で。


これから取り組もうとしている修論の裏打ちは、阪神淡路大震災の究極の情況で歌われた「赤とんぼ」の歌声だと、ずっと以前から心に決めていた。20年という節目に、論文の執筆にとりかかることに不思議な天の采配を感じる。

プロフィール

Diva

Author:Diva
中野陽子

声楽家 ソプラノ歌手
山田耕筰の孫弟子
声楽の健康科学 研究者


相愛大学音楽学部
声楽科卒 芸術学士
・109才まで現役指導者
 故 嘉納愛子氏に師事


サンフランシスコ
コンサーバトリー
音楽院[4年制音大]
にて研鑽を積む


大阪教育大学大学院
教育学研究科
健康科学専攻
人間科学コース
発達人間学研究修了
修士(学術)


ハルカスを拠点として、マスメディア・デパート・大学関連講座の講師をつとめています


●読売新聞大阪本社・讀賣TVを運営母体とする文化センター講師


●ハルカス近鉄本店 文化サロン他 講師


●大阪健康福祉短期大学
健福ハルカス大学 講師


声楽を軸に、歌う日々やサンフランシスコ暮らしの懐古をエッセイ風に綴ります。

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